チャージ技とは
ポケモンの技は数多く存在していて、その中でも特別な処理が必要なものがいくつかあります。その1つが「チャージ技」です。
※チャージ技とはポケモン上で用いられている用語ではありません
現在実装している初代御三家+ピカチュウの初代レベルアップ技の中では以下の2つがあります。
- ロケットずつき
- ソーラービーム
どちらも、技を選択したターンは攻撃が出来ずに溜め段階に入ります。ポケモンでは毎ターン技選択ができますが、チャージ技の際は選択が出来ず次のターンへ移行し、自動でその技を放つという仕様です。
技としてはわかりやすいのですが、これを仕組みとして実装するには現在作成している処理とは別の処理が必要になるので、今回それをまとめていきたいと思います。
ロケットずつき
今回は2つの内の1つである「ロケットずつき」を参考にチャージ技の仕様を作成します。ロケットずつきを選んだ理由としては、ソーラービームと違い1点特別処理が必要になるからです。
1ターン目は準備し、2ターン目に攻撃する。
準備したターンに自分のぼうぎょが1段階上がる(第二世代以降)。
ロケットずつき(ポケモンwiki)
準備ターンには防御が1段階上昇するという追加効果が発生します。なので今回はこちらも合わせて実装していきましょう。
状態変化の活用
チャージ技の場合、次のターンに移行してポケモンのインスタンスを再生成した際に「チャージ中」ということを判定する必要があります。チャージ用にプロパティをもたせて引き継ぎ処理をしても良いのですが、せっかくなので前回作成した「状態変化」を活用してチャージ状態を判定しましょう。
まずは、状態変化のクラスとしてチャージ(ScCharge)を作成します。
チャージ:状態変化(/Classes/StateChange/ScCharge.php)
<?php
require_once(__DIR__.'/../StateChange.php');
// チャージ
class ScCharge extends StateChange
{
/**
* 正式名称
* @var string
*/
protected $name = 'チャージ';
/**
* 状態変化にかかった際のメッセージ
* @var string
*/
protected $sicked_msg = [
'SkullBash' => '::pokemonは、頭を引っ込めた',
'SolarBeam' => '::pokemonは、光を吸収した',
];
}
sicked_msgのプロパティにはチャージ時のメッセージを格納しておきます。今回はロケットずつき(SkullBash)とソーラービーム(SolarBeam)の2種類用意しています。
次に、技のチャージチェックを行います。チャージが必要な技かどうか、技のクラスに対してchargeというメソッドを作成しましょう。
わざクラス(/Classes/Move.php)
<?php
require_once(__DIR__.'/../Traits/InstanceTrait.php');
require_once(__DIR__.'/../Traits/ResponseTrait.php');
// 技
abstract class Move
{
use InstanceTrait;
use ResponseTrait;
/**
* チャージ技
* @var boolean
*/
protected $charge = false;
/**
* インスタンス作成時に実行される処理
*
* @return void
*/
public function __construct()
{
//
}
/**
* チャージ効果
*
* @return void
*/
public function charge($atk)
{
// チャージ不要
return false;
}
ロケットずつき(/Classes/Move/SkullBash.php)
<?php
require_once(__DIR__.'/../Move.php');
// ロケットずつき
class SkullBash extends Move
{
/**
* 正式名称
* @var string
*/
protected $name = 'ロケットずつき';
/**
* 説明文
* @var string
*/
protected $description = '1ターン目は準備し、2ターン目に攻撃する。準備ターンに自分の防御が1段階上がる。';
/**
* タイプ
* @var string
*/
protected $type = 'Normal';
/**
* 分類
* @var string(physical:物理|special:特殊|status:変化)
*/
protected $species = 'physical';
/**
* 威力
* @var integer
*/
protected $power = 130;
/**
* 命中率
* @var integer
*/
protected $accuracy = 100;
/**
* 使用回数
* @var integer
*/
protected $pp = 10;
/**
* 優先度
* @var integer
*/
protected $priority = 0;
/**
* チャージ
*
* @param object $atk
* @return boolean (true:準備ターン, false:攻撃ターン)
*/
public function charge($atk)
{
/**
* @param Pokemon $atk 攻撃ポケモン
*/
// 状態変化の取得
$sc = $atk->getSc();
// チャージ前後の分岐
if(isset($sc['ScCharge'])){
// チャージ完了
$atk->releaseSc('ScCharge');
return false;
}else{
// チャージ開始
// 自身をチャージ状態にする
$msg = $atk->setSc('ScCharge', 1, get_class());
$atk->setMessage($msg);
return true;
}
}
}
まず技の親クラスに対してチャージメソッドを作成します。ほとんどの技ではチャージが不要になるので単純にfalseを返却するだけです。
チャージが必要な技には、chargeというメソッドを作成してそれぞれ個別の処理を記述します。effectメソッドと似た使い方です。
ではチャージメソッドの処理を見てみましょう。
/**
* チャージ
*
* @param object $atk
* @return boolean (true:準備ターン, false:攻撃ターン)
*/
public function charge($atk)
{
/**
* @param Pokemon $atk 攻撃ポケモン
*/
// 状態変化の取得
$sc = $atk->getSc();
// チャージ前後の分岐
if(isset($sc['ScCharge'])){
// チャージ完了
$atk->releaseSc('ScCharge');
return false;
}else{
// チャージ開始
// 自身をチャージ状態にする
$msg = $atk->setSc('ScCharge', 1, get_class());
$atk->setMessage($msg);
return true;
}
}
引数には攻撃ポケモンを受け取ります。攻撃ポケモンの状態変化にチャージ(ScCharge)があるかどうかを確認し、もしあればチャージ完了ターンとして状態変化を解除してfalse(チャージ不要)を返却します。
もし未チャージ状態であれば状態変化クラスにScChargeをセットしてtrue(チャージ必要)を返却します。バインドで使用したように、setScの第3引数に技クラス名を格納しておけば、どの技のチャージ中かを判別できるというものです。
第1世代の技のみであればチャージターンが1ターンのみのものしか有りませんが、天候システムがあればソーラービームのチャージターンが2ターンになるなども考えられます。そういった場合は必要ターン数をセットしてターン経過処理を追加すれば実装できます。
では作成したチャージメソッドをattackメソッド内で呼び出しましょう。
攻撃用トレイト(/Traits/Battle/AttackTrait.php)
/**
* 攻撃
* (攻撃→ダメージ計算→ひんし判定)
*
* @param object $atk_pokemon
* @param object $def_pokemon
* @param object $move
* @return void
*/
protected function attack($atk_pokemon, $def_pokemon, $move)
{
// 行動チェック(状態異常・状態変化)
if(!$this->checkBeforeSa($atk_pokemon) || !$this->checkBeforeSc($atk_pokemon)){
// 行動失敗
return;
}
// チャージチェック
if($move->charge($atk_pokemon)){
// チャージターンならメッセージを格納して行動終了
$this->setMessage($atk_pokemon->getMessages());
$atk_pokemon->resetMessage();
return;
}
状態異常・変化の行動チェック後に確認、もしチャージターンならメッセージを返却して処理を終了させます。ポケモンのインスタンスからメッセージを引き出した後は、メッセージの重複を防ぐためにもメッセージの初期化(resetMessage)を呼び出しておきましょう。
ステータス補正
次にステータス補正についてです。ロケットずつきの場合、チャージターンに防御ランクが1段階上がるという仕様があります。これは「チャージターンのみ」のため、技使用後にはランクを元に戻さなければなりません。
しかし、単純にチャージターンに+1、チャージ完了後にー1という計算をしてしまうと、+6状態でロケットずつきを使用した際にチャージターンに+補正ができないため、終了後に防御ランクが1下がってしまうという問題が発生します。
これを回避するためにも、ランク補正を加算減算するのではなく、getRankのメソッドで「状態変化でロケットずつきのチャージ中なら防御+1」という条件を加えるという方法を採用します。
Get格納メソッド
/**
* ランク(バトルステータス)の取得
*
* @param string|null
* @return array|integer
*/
public function getRank($param=null)
{
// ランクを変数に格納
$rank = $this->rank;
/**
* ロケットずつき待機中は防御+1補正
*
* 1.チャージ状態
* 2.ロケットずつきのチャージ状態
* 3.ぼうぎょランクが+6以外
*/
$sc = $this->getSc();
if(isset($sc['ScCharge']) && ($sc['ScCharge']['param'] === 'SkullBash') && ($rank['Defense'] !== 6)){
$rank['Defense']++;
}
// パラメーターに合わせた返り値の分岐
if(is_null($param)){
return $rank;
}else{
return $rank[$param];
}
}
ランク返却前に状態変化チェックを追加しました。これならランクに直接補正をかけず、取得した際のランクにだけ補正をかけることができ、防御ランクの上限に関わらず影響をもたらすことがありません。
自動アクションの作成
最後に次ターンの処理を実装しましょう。
チャージ技を使用すると、技選択はもちろんポケモンの交換や道具の選択をすることができません。なので、ひんし状態にならなければそのまま自動的に次のターンへ移行させるか、次のターン分の処理までまとめて実行するかのどちらかが必要になります。
- 自動的に次のターンへ移行 → JavaScript(jQuery)を使った自動送信
- 次のターン分の処理までまとめて実行 → PHPでactionメソッドを再実行
当初はjQueryを使った自動フォーム送信で考えていましたが、せっかくPHPポケモンということもあり、制御も思ったより簡単に出来たので「次のターン分の処理までまとめて実行」で対応します。
まずはバトルコントローラー内にチャージ状態かどうかを判定するためのメソッド(chargeNow)を作成しましょう。
バトルコントローラー(/Classes/Controller/BattleController.php)
/**
* 行動不可(チャージ中)の判定
*
* @return boolean (true:行動不可, false:行動可)
*/
private function chargeNow()
{
$sc = $this->pokemon
->getSc();
// チャージ中なら行動選択不可
if(isset($sc['ScCharge'])){
return true;
}else{
return false;
}
}
次にチャージ判定を使ってアクションメソッド内で分岐させます。
バトルコントローラー(/Classes/Controller/BattleController.php)
/**
* アクション
*
* @param string $action
* @param mixed $param
* @return void
*/
private function action($action, $param)
{
// 敵ポケモンの技をインスタンス化
$e_move = $this->getInstance($this->aiSelectMove());
switch ($action) {
/**
* にげる
*/
case 'run':
$this->run++;
if($this->checkRun()){
$this->endBattle();
}
$this->setMessage('逃げられない!');
// 敵ポケモンの攻撃
$p_damage = $this->attack($this->enemy, $this->pokemon, $e_move);
break;
/**
* たたかう
*/
case 'fight':
// 自ポケモンの技をインスタンス化($param指定がなければチャージ技を取得)
$p_move = $this->getInstance($param);
// 行動順の判定
$order_array = $this->orderMove(
[$this->pokemon, $this->enemy, $p_move],
[$this->enemy, $this->pokemon, $e_move],
);
// 行動順にforeachでattackメソッドを実行
foreach($order_array as list($atk, $def, $move)){
$this->attack($atk, $def, $move);
// ひんしチェック
if($this->setToCheckFainting($def, $atk)){
// ひんしポケモン有り
break 2;
}
}
// 行動順にforeachでcheckAfterSaとcheckAfterScを実行
foreach($order_array as list($atk, $def, $move)){
$this->checkAfterSa($atk);
$this->checkAfterSc($atk, $def);
// ひんしチェック
if($this->setToCheckFainting($def, $atk)){
// ひんしポケモン有り
break 2;
}
}
break;
} #endswitch
// ひんしポケモンがでた場合の処理
if($this->fainting['enemy'] || $this->fainting['friend']){
$this->judgment();
return;
}
// チャージ中なら再度アクション実行
if($this->chargeNow()){
$this->action($action, $param);
}else{
$this->setMessage('行動を選択してください');
}
ひんしチェック終了後に、チャージ状態かを確認して「行動選択」か「アクションの再実行」を行います。これで、もしチャージ技であれば次の行動のアクションまで自動的に行なってくれます。
では、出力結果を見てみましょう。
現在は画面上も一括処理をしている関係上、チャージ時(頭を引っ込めた)時点で相手のHPは減ってしまっていますが、その後相手ポケモンの攻撃が行われて、選択画面をスキップしてロケットずつきの発動が確認できました。
相手ポケモンのチャージ技
自ポケモンの場合はこれで問題ありませんが、相手ポケモンがチャージ技を使用した場合は別です。チャージ状態が状態変化として格納されていても、次も同じ技を選択してくれるかわかりません。
なので、相手ポケモンのAIにチャージ技を使用した際の分岐を追加します。まずは自ポケモンでも使えるように、チャージ技を取得するためのメソッドを作成します。
Get格納トレイト(/Traits/Pokemon/GetTrait.php)
/**
* チャージ技を取得
* @return string
*/
public function getChargeMove()
{
$sc = $this->getSc();
return $sc['ScCharge']['param'] ?? '';
}
※現在は相手ポケモンのAIでしか使用予定がないので、わざわざ作成せずにAI内で完結させても構いません
次にAIに分岐を追加しましょう。
敵ポケモン行動AI(/Traits/Battle/EnemyAiTrait.php)
<?php
// 敵ポケモンの行動AI
trait EnemyAiTrait
{
/**
* 技の選択
*
* @return string
*/
protected function aiSelectMove()
{
$sc = $this->enemy->getSc();
// チャージ中ならチャージ技を返却
if(isset($sc['ScCharge'])){
return $this->enemy
->getChargeMove();
}
// 技の一覧を配列形式で取得
$move = $this->enemy
->getMove('array');
// ランダムで1つ返却
return $move[array_rand($move)];
}
}
もしチャージ中なら、チャージ技を選択するように分岐を追加しました。これで相手がロケットずつきやソーラービームを選択した場合、次のターンも同じ技を使用してくれます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回のPHPポケモンは「わざ編〜チャージ技の実装〜」をご紹介しました。
技のバリエーションが増えてくれば、その分特別処理が必要になりますが、ゲームの楽しみは更に大きくなります。また、相手のAIも作り込む要素が増えてくるのでプログラミングを学習する楽しみもさらに増えてくるでしょう。
ゲームづくりに興味がある方、プログラミング学習に取り組んでいる方は、ぜひ参考にしてくださいね。